安楽椅子のモノローグ

完全なる頭でっかちを目指す

僕だけがいない街―18年と15分

僕だけがいない街 (1) (カドカワコミックス・エース)
【あらすじ】
 毎日を懊悩して暮らす青年漫画家の藤沼。ただ彼には、彼にしか起きない特別な症状を持ち合わせていた。それは…時間が巻き戻るということ! この現象、藤沼にもたらすものは輝く未来? それとも…。

  三部けいが本作『僕だけがいない街』によって、歴史的漫画家となったことは間違いない。荒木飛呂彦の帯が話題を呼んだことは全く関係ない。ひとえに作者の力量によってである。久しぶりに手に汗握る漫画、ページをめくる手が止まらない漫画というのを読んだ。

 

 エンタテインメントにおける「タイムリープもの」の名作は、数々ある。因習や風習といった民俗学的意匠とホラーそして美少女ノベルゲームとを見事に融合させた『ひぐらしのなく頃に』、ネット世界の都市伝説や陰謀論などをふんだんに用いて独特の世界観を築いた『STEINS;GATE』、作画とまさかの鬱展開で視聴者の度肝をぬき、魔法少女のイメージを一新した『魔法少女まどか☆マギカ』。そのすべてを僕は観てきた。作品を観るたびに「タイムリープもので、これを超えるものはもうでないんじゃないか」という思いが頭をよぎる。しかし、その予想は常に裏切られ続けてきた。そしてまた、僕の悲観的予想を裏切る作品がひとつ増えた。

 

 雛形加代の死が、主人公・藤沼悟を過去につなぎとめている。彼を悩ませる「再上映(リバイバル)」の能力は主人公のそのトラウマと関係しているのであろうことは容易に推察がつく。母が突然何者かに殺害される。容疑者として追われる悟。そして起こる空前の再上映(リバイバル)。悟は小学生に戻ってしまうのだった。

 

 小学生までタイムリープしてしまうという設定に驚かされる。それが悟の行動を制約する。その中で、悟がどうやって加代を救うのか。そして、どうやって母の殺害されない未来にたどり着くのか。何より真犯人は誰か(これは意外とすぐにわかってしまうだろうが)。「再上映(リバイバル)」は、しかし、成功するとは限らない。真犯人は狡猾であり、悟の思考のはるか先をいく。未来を変えることは容易ではないのだ。

 

 どんどんページをめくる。忠告しておくが、必ず全巻揃えてから読まねばならない。全ての巻が、最もいいところで終わってしまうように計算されている。次の巻がなければモヤモヤした気持ちのまま取り残されるだろう。どうせ眠ることはできない。

 

 圧巻なのは、真犯人がわかった後だ。ここからの怒涛の展開は誰も予想できないだろう。真犯人を、どうやって悟は追い詰めるのか。真犯人の頭の良さには心底脱帽させられる。こんなにかっこいい悪役を見るのも久しぶりだった。あっぱれなのである。ここだけの話、僕はちょっと真犯人を応援したくもなった。なにせ彼の境遇ときたら…。いや、とにかくすべて読んでもらったらわかる。

 

…には15分のアドバンテージ。僕には18年のアドバンテージでやっと五分だよ。

 

もうこの台詞が。何とも心に残る。感動とかそう言う意味ではなくて、この台詞が真犯人がいかに強敵であったかを端的に物語っているのだ。

 

世界線がずれるのも憎らしい設定だ。

 

一緒に 雪宿りしてもいいですか?

 

いいよー!いいに決まってんだろ! 泣ける。

 

タイトルの意味も最後にわかる。とにかく読んでください。大傑作ですから。