安楽椅子のモノローグ

完全なる頭でっかちを目指す

ヘウレーカ!!

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 『又吉直樹のヘウレーカ』は、人生に効く数学の話を聞かせてもらうとコーヒー代はタダ、という風変わりなカフェを舞台に、又吉直樹が若手数学者に話を聞かせてもらう、なかなか趣向を凝らしたTV番組である。九州大学マス・フォア・インダストリ研究所の千葉逸人先生と京都大学白眉センター数理解析研究所助教鈴木咲衣先生が、若手数学者代表として出演されておられたので、これは見逃すまいと録画視聴した。お二人の経歴は次のようである。(それぞれ各大学の自己紹介より引用)

 

千葉逸人先生のプロフィール
専門は力学系理論です。特に解の定性的な挙動を調べるための分岐理論やカオスに興味があり、その対象は低次元力学系から無限次元力学系にまで至ります。近年、物理・工学や生物において結合振動子系(大多数のモノたちが互いに相互作用することで多様な振舞いを見せる系)の研究が盛んになってきており、そこでも大自由度力学系(無限次元力学系)の理論は大活躍されると期待されます。しかし数学的にはまだまだ未開拓であり、極めて豊富な話題を提供してくれます。特に最近は、無限次元力学系において、連続スペクトルがダイナミクスに与える影響の関数解析的な手法による研究や、ネットワーク上の力学系においてグラフのトポロジーダイナミクスに与える影響の研究に興味を持っています。このような数学として困難な力学系の研究は、物理や工学のほうが進んでいることも多く、応用も豊富です。このように他分野とも交流を持ち、応用まで見据えた基礎的な数学の研究を行っています。

 

鈴木咲衣先生のプロフィール
幾何学の中でも結び目理論を専門にしています。その名の通り、「結ばったひも」の構造を数学的に研究する分野です。近年、結び目理論は表現論や数理物理など様々な分野と関連しながら急速に発展しています。私も分野が交錯する場所でもみくちゃにされながら研究をしています。数学をしていると安心します。数学は自由で、どこにいても、何がなくてもできます。孤独?と聞かれることもありますが、そんなことはありません。学問を介すれば、時代や場所を超えて世界中の人とコミュニケーションを取ることができます。もがきあがいた末に大切なのは、素直な感性。心惹かれる物に正直に、きれいなものを見てきれいと思い、大切だと思うものを大切にしたい。白眉プロジェクトでもそんな感性を大切にしながら、日々数学と向き合っていきたいと思っています。

 

 鈴木先生は、今は京都大学におられるが、直前は九州大学におられた。お二人とも九州大学つながりということで、抜擢されたのであろう。僕は数学については、昔から憧れを持っている。自分がたいして数学ができない分、数学が天才的にできる人を見ると称賛の眼差しで見てしまうのだ。特に、昨今の若手数学者(数学者には限らないが)の方々は、僕のような一般大衆に寄り添うようなお話をしてくれる方が多く、聞いていてとても心地が良い。数学の面白さを真剣に伝えようとする、純粋な熱情が真直ぐに伝わってくる。若者の「理系離れ」を解消するために、近頃では、若手たちが色んな場所に駆り出されて中高生相手に話をしているが、僕も若いころにこんな人たちの話を聞いていたら、できないなりに、数学の道を志してもいいかな、という気になっただろう。

 

 お二人に共通するのは、分野の交錯点における数学を専門としておられることだ。数学が、その応用としての本領を発揮する物理や工学と積極的に接点をもちながら奮闘しておられる。数学というと、どうしても抽象的だとか、公理主義的だとかいう何だかお堅いイメージがつきまとうものだが、決してそれだけではない、ということをお二人は番組の中でも教えてくれていた(もちろん、原理から考えることの大事さを強調されてもいたが)。

 

 数学って、世の中の何の役に立つのか(『先に生まれただけの僕』で出る質問だなあ)という質問はよくあるが、犀川先生ばりに「役に立たないから人間的なんだよ」と言い切ってしまうのもかっこいい。でも、「ちゃんと役に立ってるよ」と説明することも大事だと思う。数学やってても食えないよ、という声も聞く。確かにそういう時代もあったのかもしれないが、それは時流に無知な人の妄言に過ぎないだろう。世の中の役に立たない数学などない、というのが昨今の数学事情である。応用数学なしに現代文明など成り立たないだろうから。数学でも十分に飯は食えるはずだ。

 

 実は、この番組を観て、久しぶりに昔ハマッてたカオス理論の本でも読みたいな、と思ったのである。昨日のレビューはこちら。

 カオス理論だけではない、いまや、続々と「新しい科学」は誕生しているのだ。今この瞬間にも。