安楽椅子のモノローグ

完全なる頭でっかちを目指す

ワイアード、アフリカにいく

   WIREDは,ここ最近刊行されている雑誌の中で最も刺激的な雑誌である.毎号の特集が極めて刺激的で,示唆に富んでいる.よくもまあ,こんなにユニークな特集をはずれなしに組めるものだ,と思う.

 2017年の秋号の特集は,AFRICAである.アフリカ-何という魅惑的な響きだろう.そこはもはや未開の土地ではない.アフリカと聞いて,砂漠やサバンナしか思い浮かばないようであれば,そのような人にこそ,今季のWIREDはうってつけである.

 言うなればそれはアフリカを巡る旅だ.本物の旅である必要などない.想像力の旅である.本書は,貴方の想像力を最大限に掻き立ててくれるだろう.ケープタウンヨハネスブルグキガリ,ナイロビ,ラゴスそしてアクラの今を探求する旅を本書を通じて,我々は追体験することができる.しかも,とんでもなく知的刺激に満ちた旅だ.

 各チャプターの冒頭を飾る言葉はいずれも挑発的である.たとえば,ケープタウンのチャプター.

 

アパルトヘイトが撤廃され,黒人による政権が樹立した1994年。
その歴史的な年の前後に生まれた世代を,この国では「フリーダムベイビーズ」と呼ぶ.自由であることとは,自分自身が選び,何者であるかを問い直すことだ.
南アフリカで「わたし」が「わたし」であることを認められた初めての子どもたちは,いま何を求め,何を選び,何と戦っているのか.

 

あるいはラゴスのチャプター.

 

「この街の人間は,みんな自分のことしか考えていない」
クルマを運転する写真家が,無茶な割り込みに腹を立てて叫ぶ.
頼るべきシステムがない街,ラゴスでは,オーガニックに成長しなければ,サクセスするどころか,生き残ることすら難しい.そして,だからこそ夜は長い.人がつながり,ともに未来をつくるために. 

 

すべてのページがクールである.内容はぜひ本誌を手にとって確かめて見て欲しい.もちろんだが,西洋と対置されたアフリカの取材ではない.先進国の人間が,途上国にプリミティブな好奇心を求めて取材されたアフリカでもない.強いて言えば,今やアフリカの対義語はクラシックとでも言うべきか.あるいは,アフリカの対義語はデジタルかもしれない.

 アフリカはそのうち世界を席巻する.そんな予感を感じさせてくれる1冊だった.

 そうそう,冒頭からいきなり名言が飛び出す.

 

「コンピューターにはアフリカが足りない」

 

巻頭のEditor’s Letterも傑作である.WIREDが発行されている時代に生まれて本当によかった,と僕は心の底から思う.