安楽椅子のモノローグ

完全なる頭でっかちを目指す

メフィスト賞の軌跡―その11 髙里椎奈

Zu Ende sehen, Zu Ende denken

 

【あらすじ】
美男探偵3人組?いいえ実は○×△□です!
見たところ20代後半の爽やかな青年・座木(くらき・通称ザギ)、茶髪のハイティーン超美形少年・秋、元気一杯な赤毛の男の子リベザル。不思議な組み合わせの3人が営む深山木(ふかやまぎ)薬店は探偵稼業が裏の顔。だが、もっと驚くべきことに、彼らの正体は○×△□だった!?謎解きはあくまで本格派をいく第11回メフィスト賞受賞作。
たっぷり雪が積もった小学校の校庭に、一夜にして全長100メートルものミステリーサークルが現れた。雪の妖精あるいは蝶の標本のような輪郭はくっきりと美しく、内側にも外側にも足跡などはいっさい残っていない。だが、雪が溶けたとき、その中央には他殺死体があった!薬屋でもあり○×△□でもある美男探偵トリオが、初めての難事件に挑む!

 

 髙里椎奈の『銀の檻を溶かして』は、妖怪たちが探偵役という何とも不思議なミステリ小説である。身長165㎝と小柄ながら、比類なき美貌を備えた少年・深山木秋、長身痩躯で優しさに溢れた青年・座木、見た目は小学生の元気なポーランド妖怪・リベザル。3人は薬屋を営みながら、裏稼業として、知る人ぞ知る探偵業を行っている。当然、そこには普通の事件の依頼などやってくるはずもない。彼らは妖怪やら悪魔やらの絡んだ珍妙な事件の解決のため奔走する探偵たちなのである。

 

 ある日のこと、彼らの元に悪魔と契約した男がやってくる。市橋厚というその不動産会社員は、仕事熱心なあまり職務遂行のため、うっかり悪魔と契約を結んでしまった。だが、悪魔と契約した人間は願い事をかなえる対価として殺された挙句に魂を奪われてしまうというのだ。契約を後悔した市橋は、秋たちの噂を聞きつけ、悪魔との契約を反故にしてもらうため、薬屋を訪れる。
 同じころ、秋たちの住む街では、小学校に突如出現したミステリーサークルの話でもちきりになっていた。小学校の校庭に一夜にして全長百メートルはあろうかという「雪の妖精」が出現したのだ。これだけでも立派な全国ニュースなのだが、その雪が解けた後、なんとその「雪の妖精」の中から小学生の遺体が発見されたのである。しかも、足跡はどこにも残されていない。いわば巨大なクローズドサークルのお出ましというわけだ。
 一見すると、何の関係もないように見えるこの2つの事件が意外なところでつながり始め・・・。

 

 妖怪の仕業などというと、何でもありのように感じてしまうが、そこはメフィスト賞受賞作である。もちろん妖怪の仕業だけで終わらせるわけがない。どんな解決が用意されているかは読んでのお楽しみである。高里椎奈は、キャラをつくるのが上手だ。妖怪3人たちは、みんな違った個性を持ち合わせていて、妖怪なのにとても人間臭い。その人間臭さがいい味を出していて、事件に対する3者3様のアプローチの違いも見物となっている。3人のうち誰が好みか非常に意見の分かれるところであろう。もちろん3人とも好きになってしまうかもしれない。

 

 全体としてゆるふわな感じでストーリーは進んでいく。謎解きとしても楽しいが、どちらかというと会話重視の小説といった印象だった。西尾維新などはこの系譜の延長上に位置する作家であろう。西尾の作品が好きな人は、きっと高里の作品も好きになれると思う。トリック自体はそれほど唖然とするものではなく、ミステリに長けた読者であれば、ひょっとすると思いついてしまうかもしれない。西尾の作品もそうだが、解決自体に重きが置かれているわけではなくて、解決に向かうまでの道筋で登場するキャラたちの掛け合いこそが醍醐味なのである。


 本作は薬屋探偵妖綺談としてシリーズ化されている。高里椎奈は執筆意欲がとても旺盛で、これ以外にも多くのシリーズ作品を手掛けている。このように一定レベル以上の作品を出版し続けられる能力は驚異的だし、職業作家とはこうあるべきだという、見本のようでもある。本当に尊敬に値する作家である。

 

 ちなみに僕は高里作品では、『祈りの虚月』が好きです。学園ものっていいですよね。

 

聖アステール女学院には、秘密の言い伝えがあった。「神無月の夜、虚月の下で儀式を行うと願いが叶う」
虚月(三日月)の深夜、校舎に忍び込んだ高校生たちは儀式を行うため、暗号めいた名を持つ「三つの鍵」
――「叡智」「願い」「信頼」を探しはじめる。
それぞれが心に秘めていた願いとは? 
そして彼女たちに降りかかる不可思議な事件とは?
高里椎奈が多感な少女たちを描く学園ファンタジー。

 

前回のは、こちら。