安楽椅子のモノローグ

完全なる頭でっかちを目指す

死にゆく患者(ひと)と、どう話すか

日本人の死因第1位は「悪性新生物」である。端的に言えば、「がん」だ。日本人の2分の1は、「がん」に罹患し、3分の1は「がん」で死亡する。将来の見通しはさらに悲観的なもので、そのうち日本人の3分の2が「がん」に罹患し、2分の1が「がん」で死亡するなど…

メフィスト賞の軌跡―その15 氷川透

コムロの曲がみんな同じだって?〔…〕むしろ興味深いのは、彼の曲って、どうやって作ったのかプロシジャが露骨に透けて見えることだよね。彼の作曲は、きわめてルーティンなパターンに則った作業にちがいない。才能もひらめきも必要ない。それにくらべて、宇…

メフィスト賞の軌跡―その14 古処誠二

それは平和で結構なことだ。それが望ましいことなんだ。武力を持っているような組織は、国民から白い目で見られる必要があるんだ。 【あらすじ】 自衛隊は隊員に存在意義を見失わせる「軍隊」だった。訓練の意味は何か。組織の目標は何か。誰もが越えねばな…

欅坂46は宇宙際タイヒミュラー理論である

宇宙際タイヒミュラー理論が一体何を語る理論なのかを僕は知らない。どうやらABC予想という数学史上最大級の謎を証明するために使われたということは知っているが、ではABC予想とは何かと聞かれたところで、僕にできるのはただうつむくことだけだ。自分が生…

症状を知り、病気を探る―ヤンデル先生に会いたい

OPQRST ―― アルファベットの歌ではない。医学の世界でOPQRSTといえば、問診の基本である。OはOnset(発症様式)、PはPalliative & Provocative(増悪・寛解因子)、QはQuality & Quantity(症状の性質や強さ)、RはRadiation or Region(放散や場所)、SはSy…

メフィスト賞の軌跡―その13 殊能将之

「きみがハサミ男だったんだね。さあ、ぼくといっしょに来てくれないか」 ミステリ小説に限らず、傑作に出会うというのは幸運であると同時にもの悲しさも伴う出来事である。読んでいる間は高揚感に包まれるが、読み終わってしまうと、もう二度と初読時と同じ…

中動態の世界 意志と責任の考古学ーあるいは音楽を聴くことについて

國分功一郎『中動態の世界 意志と責任の考古学』は刺激的でスリリングな書物である。こんなにおもしろい思想書を読んだのは久しぶりだった。能動態とも受動態とも違う態「中動態」、失われた態をめぐる言語的・哲学的・思想史的考察はまさに圧巻の一言である…

メフィスト賞の軌跡ーその12 霧舎巧

面白い、ドッペルゲンガーの館というわけか 「館」と聞けば、ミステリファンなら涎が出るほどの大好物である。僕のような、にわかファンにも心に残る館ものはいくつかある。島田荘二『斜め屋敷の犯罪』、綾辻行人『十角館の殺人』、鮎川哲也『リラ荘殺人事件…

フラジャイル

医療漫画と言えば、『ブラックジャック』、『スーパードクターK』、『ゴッドハンド輝』、『医龍』などこれまでにも数々の名作はあった。これらの主人公はすべて外科医である。ふつう「外科」と単純にいえば「消化器外科」を指す場合が多いが、これらの主人公…

独物語ーたぶんその4

最近(確か11月21日)のほぼ日「今日のダーリン」で糸井重里さんが、自分はずっと新人だったということを書かれていた。 「今日のダーリン」というのは、糸井重里らしさがすごく出ていて、文章はすごく平易で柔らかいのだけれど、そこで述べられていることは…

メフィスト賞の軌跡―その11 髙里椎奈

Zu Ende sehen, Zu Ende denken 【あらすじ】美男探偵3人組?いいえ実は○×△□です!見たところ20代後半の爽やかな青年・座木(くらき・通称ザギ)、茶髪のハイティーン超美形少年・秋、元気一杯な赤毛の男の子リベザル。不思議な組み合わせの3人が営む深山木(ふか…

メフィスト賞の軌跡―その10 中島望

正義なき力は無能なり、力なき正義もまた無能なり。 悪の華が咲き乱れる荒廃しきった高校へ転校した少年、逢川総二(あいかわそうじ)は、あの“極真”の達人だった!VS.中国拳法、ボクシング、少林寺拳法、柔道、空手、剣道。激闘は限界を超えて加速する!第1…

メフィスト賞の軌跡―その9 高田祟史

ある型のウイルスなどに至っては写真も無ければ、当然その姿を見たという人間はいない。しかし、その存在を疑っている科学者もいない上に、治療薬まで用意されている。この現実はどうだ? こちらの方がよほど怪異だ。 百人一首カルタのコレクターとして有名…

メフィスト賞の軌跡―その8 浅暮三文

しかしな、ダブェストンの郵便配達は男の中の男の仕事さ。素人は郵便を出しに行くまでに迷って野垂れ死にしてしまう奴もいる。たまに向こう見ずな馬鹿が郵便泥棒をたくらむが、大抵、野ざらしの骸骨さ。 タニアを見かけませんか。僕の彼女でモデルなんですけ…

量子コンピュータとは何か―理解不能の海を漂う

量子力学を初めて学んだとき、人はその理論の示す「わけのわからなさ」に強い違和感を覚える。量子というものの特異な振る舞いを受け入れることができるかどうかは、量子力学を制覇する(制覇できたといえる人間が何人いるだろう?)ためのまず最初の壁であ…

メフィスト賞の軌跡―その7 新堂冬樹

ゴードン・ドライ・ジンもロンリコ・ホワイトも、洒落たカクテルにしては貰えず、私に生(き)のまま飲まれていた。今度はヘルメス・アブサンが、消毒液の代わりにさせられようとしていた。 【あらすじ】 債務者への過酷な徴収から「悪魔」と呼ばれた街金融…

メフィスト賞の軌跡―その6 積木鏡介

革製の黒い乗馬靴、黒い胴着、黒い頸布、それに黒いカウボーイハット――黒尽くめの男だ。骨張った頬に、冷酷で残忍そうな細い目(どこかで見たような顔だ)。そして腰に巻かれたガンベルト!(西部劇のカウボーイ、いや、ガンマン?)唐突に、男の嗄れた濁声…

非線形科学―同期する世界

「分解し、総合する」一辺倒ではない科学のありかたが可能なことは、もっと広く知られてよいと思います。それは分解することによって失われる貴重なものをいつくしむような科学です。 「全体は部分の総和からなる」という文章に、不信感を抱く人はいないだろ…

稲川淳二の恐怖がたり―僕の真冬の風物詩

ヤダなー、怖いなー 気がついたら今年も、もう終わりかけで、年々、年の巡るスピードが速くなっていくのを感じる。もうすぐ秋が終わり、冬がやってくる。冬といえば怖い話だ。寒い季節にさらに寒気を増すために、僕は怖い話を探し求める。最近では、年中かき…

ぼぎわんが、来る―こんなの来たらぜったい嫌

それが来たら、絶対に答えたり、入れたらあかんて―― 【あらすじ】幸せな新婚生活を営んでいた田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。取り次いだ後輩の伝言に戦慄する。それは生誕を目前にした娘・知紗の名前であった。正体不明の噛み傷を負った後輩は、入…

メフィスト賞の軌跡―その5 浦賀和宏

俺がそう決めたんだ。誰にも文句は―言わせない。 【あらすじ】父が自殺した。突然の死を受け入れられない受験生・安藤直樹は父の部屋にある真っ黒で不気味な形のパソコンを立ち上げる。ディスプレイ上で裕子と名乗る女性と次第に心を通わせるようになる安藤…

心臓の力―知っているようで知らない心臓

生命はリズムを刻む。リズムを刻むことこそ、生きている証なのかもしれない。例えば、消化管の蠕動運動。調和のとれたリズムで運動が行われるからこそ、僕らは食物やその残渣を口から肛門まで送り届けることができる。例えば、ホルモン分泌。その律動的な分…

夏への扉―僕らはみんな夏への扉を探している

SF

必読である。この作品を読まずに死ぬのはもったいない。 どこがすごいか、言ってみよう。まず、タイトルが秀逸である。次に、ストーリーがおもしろい。その上、読後感も最高だ。こんな3拍子揃った小説がハズレなわけがない。 何だ、そのあまりに普通の褒め方…

メフィスト賞の軌跡―その4 乾くるみ

Jの神話 (文春文庫) 作者: 乾くるみ 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2008/11/07 メディア: 文庫 購入: 3人 クリック: 9回 この商品を含むブログ (31件) を見る 【あらすじ】全寮制の名門女子高「純和福音女学院」を次々と怪事件が襲う。1年生の由紀は塔…

私の癒し―癒しとは詩である 『谷川俊太郎詩集』

今週のお題「私の癒やし」 どうしようもなく(身とか心が)くたくたになっているときは、できるだけ何も考えないようにしている。近頃は、ずいぶんと寒くなってきたので、暖かいものが飲みたくなる。そんなに濃くないコーヒーとか、ホットジンジャーとか、ブ…

噂―作品に隠されたもうひとつの仕掛け

噂 (新潮文庫) 作者: 荻原浩 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2006/02/28 メディア: 文庫 購入: 9人 クリック: 64回 この商品を含むブログ (174件) を見る 【あらすじ】 「レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてる…

ヘウレーカ!!

『又吉直樹のヘウレーカ』は、人生に効く数学の話を聞かせてもらうとコーヒー代はタダ、という風変わりなカフェを舞台に、又吉直樹が若手数学者に話を聞かせてもらう、なかなか趣向を凝らしたTV番組である。九州大学マス・フォア・インダストリ研究所の千葉…

カオス―科学界の異端理論

カオス―新しい科学をつくる (新潮文庫) 作者: ジェイムズ・グリック,大貫昌子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1991/12 メディア: 文庫 購入: 10人 クリック: 78回 この商品を含むブログ (11件) を見る キューブラー・ロスはその著書『死ぬ瞬間』の中で、死…

僕だけがいない街―18年と15分

僕だけがいない街 (1) (カドカワコミックス・エース) 作者: 三部けい 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング) 発売日: 2013/01/25 メディア: コミック クリック: 3回 この商品を含むブログ (137件) を見る 【あらすじ】 毎日を懊悩して暮ら…

メフィスト賞の軌跡―その3 蘇部健一

六枚のとんかつ 改訂新版 (講談社ノベルス) 作者: 蘇部健一 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 1998/02/24 メディア: 新書 クリック: 1回 この商品を含むブログ (4件) を見る 京極夏彦、森博嗣、清涼院流水ときて、蘇部健一の登場である。今思えばすごい顔ぶ…